2009年9月23日水曜日

「赤砂の嵐」:ダスト・ストーム




● 窓の外が赤砂でオレンジ色に染まる。



 朝方、あの念願の鳥、「キングフィッシャー」を撮ったので、必死にかつ興に乗ってインターネットに打ち込みをしていた。
 ふと窓を見るとその向こう空が、だんだんと赤茶けてきた。
 ダイダイ色に近くなってきた。
 なんだろう。
 こちらに引っ越してきて始めての経験である。
 もちろん、
 「オーストラリア最後の日か」、
とはまるで思わなかったが。






● 団地の中から。
 まるでオレンジ色のサングラスをつけて見ているようである。


 以前、ここに来た親類が、空を鮮やかに真っ赤に染める夕日をみて「東京大空襲を思い出した」と言ったことがあった。
 もしこの空を見たら、なんと言うだろう。

 サッシはキッチリと締め切っているのだが、テーブルの上を拭くと布巾が黒ずむ。
 オレンジのホコリが空を覆っているようである。
 外に出て道路を見てみる。
 なんとなんと、2、300mほど先が見えなくなっている。


● 団地の外の道路

 どうも「赤砂」のようである。
 中国から日本にやってくるのを「黄砂」というが、これは「赤砂」といっていい。
 ここの土は赤土である。
 それは鉄分をふんだんに含んでいるためである。
 エアーズロックの岩肌が赤いのもそのせいであり、大陸中央に広がる砂漠は赤砂砂漠といっていい。
 今年は冬が暑かった。
 冬の季節が終わって間もないのに、もうすでにブッシュファイアーの警告がハイレベルで出されている。
 おそらく、乾燥しきったその砂が舞い上げられ、気流に乗って海岸部にやってきたのだろう。


● いつもは緑いっぱいの排水緑地も薄ボンヤリしている

 なを、別に大陸中央部砂漠地帯のみが赤土(赤砂)というわけではありません。
 ここも赤土なのです。
 ゴールドコーストの裏山にあたるタンバリン・マウンテンにいくとそれがよくわかります。
 前に書いたハンググライダーが行われている周辺は生地が出ていますのですぐに分かりますが、まちがいなく赤土です。
(注:人もおだてりゃ空を飛ぶ その2
 以前、その近くでカントリーマーケットが開かれ、見にいったことがある。
 グランドいっぱい、隅から隅まで目に染みるような赤土であった。

 日本風の「土は黒」というイメージはここでは通用しません。
 つまり、この大陸全体が鉄分を含んだ土壌というわけである。
 よって、オーストラリアは鉄鉱石の無限の産地でもあるというわけである。
 それがこの国の経済をしっかりと担ってくれている。
 近年は「羊の背に乗ったラッキーカントリー」ではなく、
 「鉄の大地に支えられたハッピーカントリー
なのです。
 ここに定住したころ、「人口は1,800万人です」と聞かされた。
 その後すぐに「2,000万人になりました」となり、あっという間に昨今は「2,200万人」だという。
 鉄の大地の人口はまだまだ増えていくことであろう。
 なんといっても、赤ん坊の多さが目に付くのがスーパーマケットの今日的風景である。

 ちなみに「白砂」というのもあります。
 ゴールドコーストのビーチはゴールドで黄金砂ですが、フレーザー島にいくと白砂がみられます。
 ここには七色の砂があります。
 鉱泉があって、その化学作用で脱色されて白い砂が誕生したようです。
 実際、本当に「純白の砂」です。
 まるで「雪の砂」なのです。


 インターネットでニュースを調べてみた。

25today 2009年9月23日
http://www.25today.com/news/2009/09/nswqld_3.php
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砂嵐、NSW、QLD州を襲う

シドニー地域、前夜は雷嵐
 9月22日、シドニー地域は猛烈な雷を伴う嵐に見舞われたが、夜明け前から一転して濃密な砂嵐が来襲した。
 22日の昼間は晴れていたが、キャンベラ地域はすでに砂嵐の下にあった。日が変わるとシドニーでは真っ赤な夜明けになり、フェリー休航、航空路線も国際線は着陸空港変更、国内線は離着陸スケジュール変更が伝えられた。
 NSW州保健局のウエイン・スミス環境衛生部長は、市民にできるだけ屋内に閉じこもり、激しい活動を避けるよう、メディアを通じて警告、「子供、高齢 者、喘息、呼吸器系疾患、心疾患、肺疾患のある人は微細な砂塵の影響を受けやすいので、23日いっぱいは戸外活動を避け、屋内に閉じこもり、ドアや窓を閉 め切り、また症状が出ないかどうか注意する」よう勧告している。
 さらに、「喘息患者は、Asthma Management Planに従い、常備薬を常に身の回りに用意しておくこと。砂嵐のごく微細な粒子は健康な成人でも肺を刺激することがあり、特に塵埃に敏感な人は戸外活動 をなるべく避けることが望ましい。また、激しい運動は屋内であっても避けた方がいい」としている。それだけでなく、「健康状態が急激に衰えたと感じた場合 は、ただちに医師の診断を受けることが大事だ」と述べている。
 一方、QLD州南部にも砂嵐が届いており、交通渋滞などを招いているが、23日午前の段階でブリスベン空港は平常通り運営されている。(AAP)




 「時事」には写真が載っている。
 この赤はまさに「赤」である。



シドニーで「赤い朝」=内陸部の砂ぼこり空覆う-豪
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2009092300148
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 【シドニー時事】オーストラリアのシドニーで23日朝、辺り一面の光景が赤から濃いオレンジ色に染まる現象が起きた。
 乾燥した内陸部で上空に巻き上げられた砂ぼこりが強風により吹き寄せたためで、当地の報道によると、少なくともこの「70年」間で最悪の「ダストストーム(砂ぼこりの嵐)」という。
 砂ぼこりにより視界が極端に悪化したため、市民の通勤の足でもあるフェリーは運航を見合わせた。空の便にも大幅な遅れなどが出た。(2009/09/23-11:48)


 「70年間で」という表現は、この70年間の記録にはない、ということ。
 そしておそらく、それより前にはそういうことを観測するシステムをもっていなかったということであろう。
 よって、そのような記録をとり始めて最大規模の「ダストストーム」ということではないだろうか。

 ピークは12時前後。
 写真を撮りましたので、ピーク時の様子と、その30分前とで比較してください。







 もう一つあります。







 まるで道路の向こうが、消えてしまっている。
 こういう話ありましたよね。
 小松左京の『首都喪失』
 東京がガスにスッポリとおおわれてしまう話。

 3時頃、ショッピングセンターへいきました。
 マスクをはめた人があちこちにいました。
 この赤砂、喘息系の方にはつらいものがあるようです。
 マスク風景はここでは珍しく映ります。
 5月のことですが、クーランガッタの飛行場に人を迎えにいきました。
 出国ゲートで待っていたら、ちょうどインフルエンザが騒がれた頃で、出てくる日本人はそのほとんどがマスクをしていました。
 異様な光景でした。
 ゲート側で待っている人の誰一人としてマスクをかけている人などいないのです。
 そこへデカイマスクをして、顔を半分隠した日本人がゾロゾロ出てくる。
 まるで、エイリアンの出現風景であった。

 アラブ系の女性で、顔をすっぽり黒マスクで隠して、目だけ出している人がいます。
 宗教的習慣で、はじめは驚きでしたが、慣れてくると別に気にならなくなってくるから不思議です。
 そういえば、フランスでは公立学校の教師の組合が義務教育の間は目だけ出すマスクは着用をしてはならない、と決めたというニュースがありました。
 顔の表情がわからなければ教育ができない、という理由だそうです。
 正当な理由でしょう。

 話があっちゃこっちゃと飛んでしまいました。

 ニュースではゴロあわせで「DUSTY、GUSTY:ホコリっぽく、ガスっている」と言っていました。
 おそらく、きょうの夜のニュースと明日の新聞はこの話題で持ちきりになることでしょう。




[◆ その後 ◆]

 24日のローカル新聞のトップの見出しは、[16 megaton D-bomb]であった。
 16メガトン(16ミリオントン)の赤砂が空中に舞い上げられ、シドニーからブリスベンまでの広い東海岸地域に「ほこり爆弾」となって降り注いだ、というわけである。

 写真は[Reader's Dust Stom Pics]で60枚ほど見られます。


 インターネットのニュースから。

25today - 2009年9月24日
http://www.25today.com/news/2009/09/qld_188.php
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QLD,水使用制限を一時緩和

砂嵐被害の清掃に
 9月24日、QLD州政府は、水道使用制限を一時的に緩和すると発表した。
 前日の23日、NSW州とQLD州南部は内陸の砂漠から吹き飛ばされてきた微細な砂を含んだ風が吹き荒れ、家屋や店舗の表、道路など至る所に吹き積もった。QLD州南部の被害地域でも交通渋滞、競馬中止などから健康問題まで様々な被害が伝えられている。
 一夜明けて、人々は家や店舗の清掃に追われているが、26、27日の週末にもさらに砂嵐が来る可能性も伝えられている。そんな状況を考慮し、水道局は、9月25日真夜中から10月4日真夜中までトリガー付きのホースでの自動車や建物の洗浄を許可した。
 ただし、庭やドライブウェーについては水使用制限緩和はない。
 NSW州でも、すでに砂嵐で降り積もった砂埃を洗い流すため、水道使用制限を一時的に緩和すると発表している。(AAP)



 なを、日曜日(27日)には第2波がやってくるとテレビは伝えていますが、どうなるでしょう。




25today 
2009年9月26日
http://www.25today.com/news/2009/09/post_3837.php
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シドニーに砂嵐の第二波

23日より軽度、午前中に晴れ空
 9月26日、気象庁(BoM)は、ACTとNSW州に強風予報を出し、NSW州とQLD州南部に砂嵐の予報を出していた。
 NSW州では南東部海岸から北の内陸にかけて寒冷前線が張り出しており、巻き上げられた微細な砂が空を覆った。BoMのバリー・ハンストラム地域部長 は、「今朝の衛星写真には、砂嵐の帯がNSW州南東部から州北部にかけて伸びており、シドニー地域を覆っている」と述べていた。
 砂嵐は、同日未明からバサースト、オレンジなどNSW州中西部の町を包んだが、午前7時半には同地域を離れ、ブルーマウンテンを越えた。ハンストラム部 長は、「砂嵐は広大な範囲に広がっているが、23日ほどの厚いものではない。23日の砂嵐では(鉄分を多く含んだ)赤い砂が市全域を多い、視界が500m ほどになったが、26日の砂嵐はピークでも視界が5,000mとかなり穏やかだった。この砂嵐も午前中には海上に去っていった」と述べていた。
 連邦政府の環境・気候変動・水資源省では、26日の大気の質は良好と予想したが、保健当局は、長時間戸外で過ごすことは避けた方がいいとしている。シドニー空港の飛行機の発着には何の影響も出なかった。(AAP)




25today 2009年10月07日
http://www.25today.com/news/2009/10/post_3864.php
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砂嵐、大量の土砂を海に落とす

炭素貯蔵増進の役割も
 シドニーの大学研究グループが、先日、NSW州一帯とQLD州南部を襲い、シドニーの空がオレンジ色に変わるほどのすさまじさだった砂嵐は、大陸内陸部の土砂300万トンをタスマン海に落としたと推定している。
 グループは、マコーリー大学、ニューサウスウェールズ大学、シドニー大学、シドニー工科大学の合弁で運営されるシドニー海洋科学研究所(SIMS)の研 究者で、報告論文をシドニー大学で発表した。同報告論文は、シドニー・ハーバーと大陸沖合10kmの海域で採集した水の植物性プランクトン量が、砂嵐襲来 後に通常の3倍に増えたとしている。また、海水中に入った土砂の栄養素で植物性プランクトンが大量の二酸化炭素を取り込み、酸素を吐き出して増殖すると推 定している。
 砂嵐は、9月22日にNSW州最西部で強い風が吹いて表層土を巻き上げ、翌日にはシドニーに到達した。同州最西部では砂嵐は珍しくないが、シドニーでは 23日朝にはフェリーも休航する騒ぎとなった。土砂は風に乗って東に運ばれ、その大部分がタスマン海に落ちたが、一部は海上を2000km運ばれ、ニュー ジーランドに到達している。ピーク時には1時間に75,000トンの土砂がタスマン海に落ちたと推定されている。
 植物性プランクトンは、水中に棲むプランクトンで、土砂中の窒素や燐を取り込み増殖するが、同時に地球の植物の酸素排出量の半分が植物性プランクトンに よるものとされており、タスマン海で3倍に増えたプランクトンが炭素を取り込んで増殖し、酸素を吐き出す。タスマン海ではプランクトンによる二酸化炭素吸 収量が約800万トン増えると推定されている。この量は石炭火力発電所の1年の二酸化炭素排出量に匹敵する。また増殖したプランクトンは海洋の食物連鎖の 底辺にあり、水産資源増加を促すことになる。(AAP)



【10月17日】
 まだまだ赤砂は大気中にただよっている。
 汚れた車を水洗いして一晩たつと夜露が降り、それに砂ホコリの痕が残る。
 いまのところ霧雨程度だが、雨にあたるとフロントガラスあるいはルーフとしずく模様に砂が浮き出てくる。
 ちょっと長距離を走ったあとではうっすらとガラスが曇る。
 巻き上げられた砂は少しずつ地表に降りてきており、大気がクリアになるまではいま少しかかりそうである。
 

 小松左京の『首都喪失』の話をしましたが、この雰囲気にぴったんこという映像がありました。

 道路のちょっと先に煙(砂嵐)の山脈がでんと控えている。
 ここへ車が突っ込んでいくビデオです。
 嵐のテリトリーとこの世とが明敏に分かれている。
 「入るぞ!
 といって煙の壁に突入するような、そんな感じ。
 すごいです。
 「見逃したら一生の損」といえる映像です。

WIRED VISION
http://wiredvision.jp/news/200909/2009092323.html
Broken Hillで撮影された動画で、山脈のような巨大砂嵐に自動車で突入する様子




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